奥野先生のコラム
奥野ブログ
はじまりのはじまり エッセイ
中学校の保健の教科書で出てきた生命の誕生
卵子と精子がイラストで紹介されます
横並びで
この横並びで紹介することで、さも同類のように見せていますが
この2つ、実はまったく異なる性質を持っています
精子は1日に1億個ほどのペースで毎日つくられています
まさにこの瞬間にも、精子のもととなる細胞が分裂して
新しい精子を作り続けているのです
精子に限らず、人間の体の細胞は日々分裂します
髪の毛の細胞も、皮膚の細胞も、腸の細胞も
私たちの体の細胞が日々生まれ変わっているのは、どこかで聞いたことがあると思います
しかし、体の中で生まれてこのかた、一度も分裂しない細胞があります
それが卵子です
卵子は一切分裂しません
卵子の場合は、女の子の赤ん坊が誕生した時に
お腹の中の卵巣と言われる場所に40万個ほどの卵子が用意されます
40万個と聞くと多いように感じるかもしれませんが
人間の体は60兆個の細胞でできていますから
40万個というのは、極めて少ない貴重な細胞集団です
女の子の赤ん坊が生まれるまでに用意されたこの40万個ほどの卵子は、じっと冷凍保存されているかのように、一度も分裂せずに思春期を迎えます
思春期を迎えて、排卵がはじまります
すると40万個の中から(ただしこのころには半数程になっている)
毎月、1000個がエントリーされます
そしてエントリーされた1000個の中から
最も成熟した1つの卵子だけが、排卵にいたります(残りの999個は死滅してしまう)
このときには大きさはもとの80万倍ほどになっています(2cmくらい)
1回の排卵が1個だけなのに対して、精子は1回の射精で1~4億個が含まれていると言われています
まさにこのあたりが、私が精子のことを「ふりかけのようなものだ」と表現する所以です
それはさておき、排卵に至った成熟した卵子(卵胞と呼びます)は
大爆発で宇宙空間に投げ出されるように
卵巣から飛び出して腹腔というお腹の中の空間に出ていきます
そこには大きなラッパの形をした口が待ち構えています
「卵管さい」と言われるものです
これが卵管の一方の入口です
卵管は子宮へと続く細い管(くだ)です
そして卵管の途中にある卵管膨大部(らんかんぼうだいぶ)というところまでたどり着きます
ここが精子と出会う場所です
排卵から膨大部へたどり着くまで16時間ほどかかるとされています
ここから卵胞は2日から、長いともっと多くの時間を滞在して
受精を待つとされています
精子は卵管のもう一方の入口、子宮側からさかのぼってきます
受精に至ると、そのまま子宮の方に移動していき
そこで着床(表面にくっつき赤ん坊へと成長していく)します
受精にいたらなかった卵子は、数日で死滅してしまいます
受精にいたったあとは
とても摩訶不思議な現象の連続が待っています
生命が誕生していくのです
この現象は顕微鏡でリアルタイムに見ると「誰かが指揮をとっているとしか思えない」ように見えます
細胞はリズミカルに規律をもって分裂していきます
とても統率のとれた動きをします
よく「Orchestrated(楽曲のように組織だった)」として表現される一連の流れがあります
この流れを経て1つの細胞から赤ん坊(この時には10兆を超える細胞数)が誕生します
いま地球上にいるだれもがこの過程を通ってきました
さて、ここで話を精子と卵子に戻しましょう
この「生命が出来上がる仕掛け」は精子と卵子のどちらに内包されているか?
と問われたら、ほぼ全ての科学者が「卵子」だと答えるでしょう
精子は遺伝子を運んできて、そしてスイッチを入れるだけです
あとは卵子の中に準備されている仕掛けが、音を立てて動き始めます
私たちの細胞に存在するミトコンドリアなどの重要な器官も卵子から受け継ぎます
ですから、私たちの大もとは卵子だといっても過言ではありません
私たちの大もとは卵子なのです
私は32歳ですが、私自身の大もとは32年前にできたのではなく
私の母親が赤ん坊として生まれて出てきた時に(つまり60年以上前に)
母の卵巣の中に「私」が既に存在していたことになります
そして私は母親の卵巣の中で20年以上じっとしていました
そして、あるとき出て行ったのです
私には2つ上の兄がいます
最近は頭の毛も薄くなってしまい、なんとも情けない感じです
私たち兄弟は割と仲がいいのですが、小さい頃はしょっちゅう喧嘩していたためか
未だに心の中ではどこかで兄を馬鹿にしたり、文句を言ったりする自分がいます
実は今までの話でもわかると思いますが
兄と私は、歳は2つ離れていますが
「大もと」ができたのは、ほとんど同時でした
そう
私の母親がまだ祖母のお腹の中にいたときに
二人とも同じような時期にこの世に存在し始めたのです
卵巣の中で
もしかしたら隣り近所にいたのかもしれません
そして兄が私より2年早く卵巣を出て行きました
そして2年後に私が出て行きました
私たちは「一緒に生まれてきた」とも言えるのです
そう考えると兄にもより親しみが出てきます
いま、女の子のお子さんがいる人は
その子の体の中には、すでにあなたの「お孫さん」が存在していることになります
じっとして、出て行くタイミングをはかっているのです
以上
「はじまりのはじまり」でした