奥野先生のコラム

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論文の紹介



日常診療への応用

日常診療において超音波装置で異常な血管を評価することを提唱したい。要点を2つまとめた。1つは、健側と比較しながら異常な血管を評価してみて欲しい。特に圧痛部を観察することをおすすめする。圧痛部には異常な血管が頻繁に存在する。圧痛部を健側と比較すると血流の変化や組織の形態変化が検出できる可能性がある。滑膜や脂肪組織、関節包などは異常血管のできやすい組織と言える。図8のように2画面モードで健側と並べて「こちらのほうが色の付いた部分が多いですよね。この色の付いた部分が痛みの原因になっているのですよ」と見せることができる。患者さんにも理解が得られやすい。


奥野先生の日本語原稿 「エコーを使った痛みの血流評価」 後編


2つめに、異常な血管は必ずしもカラードップラで見えるとは限らないことも覚えておいていただきたい。前述したように非常にわずかな異常血管が原因であることも多い。また深部であればあるほどドップラ信号は検出されない(図9、10)。例えば腱板疎部は肩の慢性的な痛みの原因組織として極めて重要であるが、比較的深部となるためドプラ信号が検出されないことが多い。使用する装置によって異なるであろうが、皮膚から1.5cm以深では信号検出が落ちると経験している。

奥野先生の日本語原稿 「エコーを使った痛みの血流評価」 後編


異常血管を減らすアプローチ

異常血管を観察できるようになれば、それを減らしたいと考えるのが自然である。減らす方法はカテーテルによる塞栓治療だけではない。ステロイドの局所注射も多くの場合で効果的である。ステロイドの持つ血管退縮効果が期待できる。このとき、関節腔内に投与してしまうと効果が薄れることがある。膝であれ肩であれ、関節周囲の滑膜組織や脂肪組織、関節包に異常血管があることが多いので、それらの組織内に注入したほうが効果的である。繰り返すが圧痛部は異常血管が存在することが多いのでひとつの目安となる。エコーガイド下に注入することが望ましい。慢性的な肩痛では腱板疎部に異常な血管ができていることが多いと経験している。エコーガイド下の腱板疎部へのステロイド注射の有効性は海外でも報告され始めた13)。

あるいは理学療法によるアプローチも可能だと考えている。図11はスウェーデンのグループの報告14)。アキレス腱炎に対する強度なストレッチ治療によって異常血管が減少し疼痛も改善されたと報告している。このような方法は可能かもしれない。または徒手的な圧迫でも異常血管を減少させることにつながるのかもしれない。今後の検討が必要な分野である。



おわりに

異常血管とそれに伴走する神経が痛みの原因である、というのは現在のところ仮説の域を出ていない。今後も十分な基礎実験が必要である。しかしこの仮説のもとに患者さんの痛みに耳を傾け疼痛部位を観察すると非常に多くの痛み症状が説明できることを経験している。
ぜひとも日常診療で異常血管を観察してみてほしい。痛みの原因が「見える」だけでも、患者さんの納得が得られる。次に、異常血管を減らすアプローチを開発することも試して欲しい。異常血管が減ると、痛み症状は劇的に改善する。PTにもドクターにも「異常血管に着目した診療」をこれからどんどん開発して欲しいと願っている。



参考文献
1)Okuno Y, et al : Transcatheter arterial embolization using imipenem/cilastatin sodium for tendinopathy and enthesopathy refractory to nonsurgical management. J Vasc Interv Radiol, 24(6):787-92, 2013.
[Summary] 腱炎、付着部炎への塞栓治療の有効性を報告した論文
2)Okuno Y, et al : Short-term results of transcatheter arterial embolization for abnormal neovessels in patients with adhesive capsulitis: a pilot study. J Shoulder Elbow Surg, 2014 (in press).
 [Summary]肩関節周囲炎では全例で腱板疎部に異常血管が観察され、塞栓治療が効果的であったという報告
3)Okuno Y, et al : Pathological neoangiogenesis depends on oxidative stress regulation by ATM. Nat Med, 18(8):1208-16, 2012.
 [Summary] 異常血管が生じてしまう機序の一端を明らかにした研究
4)Xu Y, et al : Enhanced expression of neuronal proteins in idiopathic frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg, 21(10):1391-7, 2012.
 [Summary] 凍結肩の患者の関節包を調べた報告.小血管の増殖とその周囲の神経の増殖を報告している
5)Gronblad M, et al : Silver impregnation and immunohistochemical study of nerves in lumbar facet joint plical tissue. Spine (Phila Pa 1976), 16(1):34-8, 1991.
 [Summary] 慢性腰痛の患者の椎間関節の滑膜組織で血管の増加とその周囲に神経が豊富に見られる
6)Witonski D, et al : Distribution of substance-P nerve fibers in the knee joint in patients with anterior knee pain syndrome. A preliminary report. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 7(3):177-83, 1999.
7)Gotoh M, et al : Increased substance P in subacromial bursa and shoulder pain in rotator cuff diseases. J Orthop Res, 16(5):618-21, 1998.
 [Summary] 有痛性腱板断裂の患者の肩峰下滑液包には小血管の増加とその周囲の神経の増加が認められる
8)Walsh DA, et al : Angiogenesis in the synovium and at the osteochondral junction in osteoarthritis. Osteoarthr Cartil, 15:743–51, 2007.
9)Alfredson H, et al : Is vasculo-neural ingrowth the cause of pain in chronic Achilles tendinosis? An investigation using ultrasonography and colour Doppler, immunohistochemistry, and diagnostic injections. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 11(5):334-8, 2003.
10)Yoshida H, et al : The expression of substance P in human temporomandibular joint samples: an immunohistochemical study. J Oral Rehabil, 26(4):338-44, 1999.
[Summary] 顎関節症の組織ではサブスタンスP線維が増加しており、それらは増殖した小血管の周囲に存在する
11)山崎文夫 : 動静脈吻合と熱放散システム. 井上芳光ほか編, 体温Ⅱ 体温調節システムとその適応, pp98-105, NAP, 2010.
12)Rowell LB : Circulatory adjustments to dynamic exercise. Human Circulation Regulation During Physical Stress. Oxford University Press, New York, NY, pp 213 ― 256, 1986.
13)Juel NG, et al : Adhesive capsulitis: one sonographic-guided injection of 20 mg triamcinolon into the rotator interval. Rheumatol Int, 33(6):1547-53, 2013.
14)Ohberg L, et al : Effects on neovascularisation behind the good results with eccentric training in chronic mid-portion Achilles tendinosis? Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc, 12(5):465-70, 2004.




奥野先生の日本語原稿 「エコーを使った痛みの血流評価」 後編